18.切なさを知る日
最近のボクは何か変だ。
大好きなご飯も、ジェリーさんが作ってくれたみたらしだんごも、
なんとなく美味しく感じない。
口を付いて出るのは溜息ばかりで、
胸の中がモヤモヤと落ち着かない。
……そう、これは全部彼のせい。
あの口が悪くて無愛想な、黒髪ぱっつんエクソシストのせいだ。
「……でさぁ〜、ユウときたら任務の後中々離してくんなくてさぁ〜。
結局なんだかんだと朝まで色々としつこくて、寝かしてくんないんさ」
「……へ、へぇ〜。そりゃあ大変でしたねぇ……」
「でさ、でさ、俺は眠くてしょうがないのに、また今日も夜部屋に来るって言うんさ?
もう、あのしつこさはなんなんだろうなぁ?
まぁ、これも愛のなせる技っつーの? 俺としてはどうしようもないから、
ユウの好きにさせるしかないかなぁ〜ってカンジさ?」
「そうですか。仲が良くって、さぞかし幸せなんでしょうね?」
「あれぇ? アレン、なに? ひょっとしてやきもちさぁ?」
「ちょっ、やめてくださいよ! そんなことあるわけないじゃないですか!」
そうだ。
やきもちだなんて、そんな事あるはずがない。
どうしてボクが神田とラビのことをとやかく言わなきゃいけないんだ。
そう頭で思っていても、不思議とむねの奥がざわつく。
ボクと神田は、ちゃんと口に出して気持ちを伝え合ったわけじゃないけど、
それでも、神田はボクのこと、少しは好きになってくれたと思ってた。
少なくても、ボクは彼のことが好きで。
だから、彼が自分を求めてくれたときは正直すごく嬉しくて……。
あれから幾度となく互いの部屋を行き来して、
休みの日なんかは、なんだかんだ言いながらも始終一緒にいて。
なのに、この間の夜、ほんの少し言い合いをしただけで、
ぱったりボクの部屋を訪ねて来なくなってしまった。
……どうして……かな……?
たまりかねて自分から神田の部屋を訪ねたら、そこはすでにもぬけの殻。
会いたい人の姿はそこにはなくて。
仕方なく来た食堂でふと耳にしたのは、
ここ最近の神田の噂。
部屋にも居ず、ボクの所にも来ないで、
神田はここしばらく、ずっとラビの部屋を訪れているらしい。
それも……ほぼ毎晩。
もしかしたら、もうボクのことなんか嫌いになった?
それとも……ボクより、ラビの方が……いいの?
そんなこんなで眠れなくて、頭の中はグルグルするばかり。
神田が自分のことを嫌いになったかもしれない。
そう考えただけで、もう、たまらなく切ない。
ふとベッドの上で膝を抱え、そんなことを考えていたら、
知らず知らずのうちに、ボクの瞳からは大粒の涙が零れおちていた。
すると。
─── コン、コン。
部屋をノックする音。
「誰……ですか?」
「……俺だ。入るぞ」
声の主は待ちに待っていた相手のもので、
慌てたボクは、急いで涙をぬぐうと、部屋のドアを開ける。
「……随分おひさしぶりですね?」
本当はこんなことを言いたいんじゃないのに、
ついつい、皮肉めいたセリフを吐いてしまう。
すると。
「おい、やるぞ!」
「えっ? そ、そんないきなりですか?」
「な、何勘違いしてやがる! やるっつーのはポーカーのことだ!」
「ポーカー?」
なぜいきなりそんなことを言うのか。
神田って、そんなにポーカーが好きだっけ?
そんなことを考えながら、促されるままにトランプを手にして、
ボクはこの間の言い合いの原因を思い出した。
「……あ……!」
それは談話室での一場面。
いつものことながらみんなでゲームをしていたが、
そこは体に染みついた習性なのか、案の定ボクは独り勝ちだった。
そんな中、ボクに対するいかさま疑惑が勃発する。
「俺は何事にもいかさまする奴は大嫌ぇだ!」
「ふん。ボクがいかさましてるっていう証拠がどこにあるって言うんですか!
悔しかったら一回でも僕に勝ってみてくださいよ!
ボクだって、勝負に弱い男は大っ嫌いです!!」
「なっ……よぉし覚えてろ! 絶対勝って、お前に今言ったことを撤回させてやる!」
売り言葉に買い言葉。
そんなのいつものことだと思っていた。
なのに、神田がこんなに必死になるなんて……。
「ひょっとして……神田、この前のボクの台詞、気にしてたんですか?」
神田は仏帳顔のまま、その問には答えず、黙ってカードをめくる。
そのまま、とんとんとゲームは進み、あっという間にボクの勝利。
……のはずだったに、なんで?
この僕が……負けた?!
予想もしない展開にきょとんとしていると、
神田は今まで見せたこともない不敵な笑みを浮かべた。
迂闊にもその笑顔があまりにも綺麗だったので、つい見惚れてしまう。
すると、いつの間にかボクとの距離を縮めた彼の顔が、今はすぐ目の前にあって。
「約束だ。俺が勝ったら、前言撤回すんだろ?」
言った矢先、チュッとかすめるようなキスを落とす。
「前言撤回って……ボクは初めからそんな……」
「俺のこと大嫌いだって言った」
「だ、だからっ!」
「ホントに嫌いか?」
「そっ、そんな……ズルイです……」
「何がズルイ?」
抱きすくめられるような形で、至近距離で囁かれると、
もうそれだけで嬉しくて何も言えなくなってしまう。
ただ俯いて真っ赤になっていても、
神田はそれだけでは許してくれそうにはない。
「だってボクは……神田のこと……
ずっと前から、条件抜きで……大好きなんですから……」
やっとの思いで自分の気持ちを伝えると、
神田は今までにないくらい、満足そうな笑みを零す。
そしてそのまま、ぽすんと柔らかい音を立て、
僕をベッドの上へと押し倒した。
久しぶりに感じる神田のぬくもり。
切ない吐息。
身体の芯から溶けだしてしまいそうな甘い……誘惑。
いつしかそんな誘惑に飲み込まれ、気がつくともう幾度となく身体を繋げていて。
一人で情けなく涙を浮かべていた時のことなど、
もう随分と遠いことのように感じてしまう。
「ねぇ?……神田、どうして最近、会いに来てくれなかったんですか?
それに……ここのところずっとラビの所にばっか、行ってたらしいし……」
神田の腕の中で拗ねた面持ちで呟くと、彼は少し驚いた様だった。
「なんだ?……もしかして、妬いてんのか?」
「ちょっ! そんなストレートに言わなくったって、いいじゃないですかっ!
だってボク……凄くショックだったんですから!」
「ばぁ〜か、俺がラビとどうにかなるわけねぇだろ」
結局のところ、神田はラビに、ボクにポーカーで勝つ秘訣を聞きに行ってたらしい。
ブックマン後継者として、特殊な能力を持つラビだからこそ、
僕のいかさまに万が一でも勝てる方法を予測できたわけで。
まぁ、それでも、神田が本当に僕に勝てるだろうなんていうことは、
かなり確率の低いことだと言い切っていたらしいが。
「それでボクに勝っちゃったってことは……やっぱ、あれですかね?」
「……あれ?」
「そう、愛の力の成せる技ってやつです」
ニコリとして言い放った僕に、神田は思い切り否定するのかと思いきや。
「ま、それもあるかもな……」
「……え?」
思いもよらぬセリフに呆けるボクの額に、彼は軽いキスを落とす。
「俺を本気にさせたバツだ。これからは覚悟しとけよ」
「かっ、かんだぁ……それは反則ですっ!」
「……それ、お前が言うのか?」
それからといいうもの、ボクはどんな手を使っても、
神田には到底敵わないのだと、
身を持って知ることになるのだった……。
〜FIN〜
〜『あとがき』という名のお詫び;〜
いやぁ〜〜〜、オフにかまけて、長い間更新を滞っててすみませんっっ;
なのに、こんな放置状態のサイトに足しげく通ってくださっている皆様に、
ホント、感謝、感謝でございますm(_ _ ;)m
これからも私生活(主に仕事関係)での多忙につき、
中々更新できない日々が続くとは思いますが、
時折、余裕のある時にこうして更新していきたいと思いますので、
これからも当サイトをお見捨てなきよう、
よろしくお願いいたします〜〜〜f^_^;
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